吉田鋳造総合研究所
鋳造所長雑文録
2010/05/31◆『藤枝』の現在位置
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もう13年も前の話。日本平に清水×浦和を観に行った。====ThisIsTheErrorMessege====席はアウェー側G裏。試合前、浦和側からホームサポを挑発するコールが浴びせられる。「王国さいたま!」に続いて「藤枝!藤枝!」と出てきたのには笑ってしまった。当然、これには清水側から大ブーイング。だわなあ。

その藤枝。「サッカーの街」を自認するこの都市に、『Jを目指す』と公言するクラブが出来た。というのは間違いで、『Jを目指す』と公言するクラブが藤枝にやって来た。というのも、もしかしたら間違いで、藤枝のクラブを買い取った事業者が『Jを目指す』と言い出した……が正解?こういう時は『現場百回』。しかも、この日は藤枝市役所との一戦。ずっとずっと前から藤枝を代表してきたクラブ。====ThisIsTheErrorMessege====岐阜×水戸を蹴り飛ばすには十分過ぎて釣りが来る状況。。


藤枝なら電車を乗り継いで行けばいい。と余裕かまして前日に旅仕度をしなかったツケで、出発して電車に乗ってから旅先で使う乗車券類を自宅に忘れたことに気づくテイタラク。これで藤枝駅から会場はタクシーになってしまうけど、全部買いなおすよりは安い。
で、藤枝駅。『長谷部誠選手』のW杯代表決定を祝うバナーが、どどーんと。街中に『誠』と書かれた幟が立っているし、新撰組かいっ(笑)。もちろん、総合運動公園へ向かうタクシー運将も誇らしげだ。でも、ぼくは少々複雑な思いだった。そりゃメデタい、そのことにケチをつけるつもりはまったくない。ただ、ここは『藤枝』なのだ。そんじょそこらの普通の街とはワケが違う。「出身者からW杯代表が選ばれるなんて当然じゃん」というような、“強気”な雰囲気を見せてくれたら、もっと嬉しい気分になったかも。ちなみに、この運将は藤枝MYFCのことはほとんど知らなかった。

立派な立派な、藤枝総合運動公園サッカー場。タクシーの中でも運将に話したのだけど、「もし“藤枝ブルックス”があったときに『J2』があったら」。静清でもない、遠江でもない、「志太」====ThisIsTheErrorMessege====のプロサッカークラブが、もしかしたら存在出来たかもしれない。藤枝に来るといつもそう思うのだけど、この立派なサッカー場を前に、改めてそう思う。


メインスタンドは、東海1部とは思えないくらいの客の入りだった。藤枝MYFC×藤枝市役所。藤枝から動きようがない、そして過去の実績は対戦相手の比ではないチームと、藤枝という街が呼んだわけでもないのにやって来た新参クラブ。試合が始まる。
おお、まだ数人とはいえ舞ちゃんにはコールサポがもういるんだね。逆に、一部のこどもたちは明らかに市役所寄りで声援を送る。でも、メインの大勢の観客はおとなしい。いや、「おとなしい」という表現は正しくないな。彼らは、広い意味では「観戦」に来ているのだけど、その実際は「観戦」ではなく「観察」なのではないか。

以前から、ホンダ都田サッカー場とかで感じたことだ。Jリーグはともかくとして、静岡では、ノンリーグの試合にやって来る観客の雰囲気が他の県とは違う。統計情報があるわけではないから「おそらく…」なのだけど、観客に占める『サッカー経験者』の割合が静岡は際立って高いのではないだろうか。例えば、自陣深くで相手からボールを奪った際に、いきなり「行けー!走れー!」という声援が飛ぶことが、ほとんどない。絶えず、プレーヤー目線。
その感じを、さらに顕著に感じたのが、この日の藤枝総合運動公園サッカー場だった。ぶっちゃけた言い方をしちゃうと、観客は「藤枝MYFC」というサッカーチームを『値踏み』しに来ているような感じだったのだ。


試合は、前半に得たPKを梅辰組の納谷が決めて、結局はこれを守りきって舞ちゃんの逃げ切り。社会人サッカーに理解のあるぼくの友人が初めて舞ちゃんの試合を観て「このサッカー、大嫌い!」とweblogで情動発散していた====ThisIsTheErrorMessege====けれど、なんかわかる気がした。
試合中にずっと感じられた、徹底した『リスクヘッジ』の思想。最後尾で仕切る斉藤監督に、中盤には吉田康弘に石井俊也に。「ボールを失わなければ失点はない」。正しいよ。しかし、半になると動きが鈍くなって市役所にもチャンスが多く訪れる。チャンスを演出するのは市役所の中盤の底でボールを操る蒔田。彼から出てくるパスの質は明らかに市役所の他の選手達とレベルが違っていた。件の市役所寄りのこどもたちから「マキタ」コールまで飛び出す。しかし、残念ながら市役所は相手ゴールネットを揺らすことが出来なかった。


この試合を観て感じたこと。舞ちゃんは東海1部を1位抜けすることは可能だろう。そして、今年の地域決勝のレギュレーションが舞ちゃんに有利====ThisIsTheErrorMessege====なのも、おそらくは事実だ。でも、上位カテゴリーに上がったとしても、舞ちゃんが「藤枝のクラブ」になる、藤枝の街が舞ちゃんを引き受けるようになるには、まだしばらく時間がかかりそうな感じ。それは、『藤枝からJへ』を標榜しながら、実際は藤枝を『名乗っているに過ぎない』ように感じたから。

MYFCという“考え方”そのものは理解しているつもりだ。でも、どうして「藤枝からJ」なのか。確かにP/Jのリーダーは藤枝出身だとどこか聴いた記憶があるのだけど、MYFCというP/Jでは意思決定は全国にいる「オーナー」が握っているはずで、そこには『地縁』もなければ『血縁』もない。強いて挙げるなら『金縁』か。
いや、『金縁』が悪いなんてまったく思っていないです。逆に、現在のJリーグが採っている「『地縁』至上主義」に最初からのらなければいいという考え方もあっていい…のかもしれない。Jを目指さなければJの縛りから解放される。ホームタウンも要らない。パン・ジャパンとして存在するサッカークラブがあったって問題はない。天皇杯予選とかのために「本拠地」を用意しておけばよいのだ。

だから、mixiでは今年の“エイプリル・フール”で「舞ちゃんと『TAKE ACTION』が手を結ぶ」という冗談を書いてみた。これ、昨年の千葉全社の際に友人と成田の焼鳥屋で呑みながら出てきたテーゼ。酒場でのブレインストーミングも悪くない(笑)。で、この時の話を通称『隠れ家』で岐阜観戦仲間に話したら、「それ、『欽ちゃん球団』だね。」なるほど~(笑)。


藤枝の方々が「自分達の街のチーム」としてMYFCを引き受けるのにはまだまだ長い時間がかかるだろうし、この試合を観る限りにおいては、藤枝の方々が「MYFCに『自分達の街のチーム』になってほしいと願っているようには思えない」といったところ。それが「藤枝MYFCの現在位置」であり「『藤枝』の現在位置」でもあるように感じた。
この日、藤枝に行ってよかった。岐阜隊が正吾の見事なループシュートで水戸に勝つところは見れなかったけれど、後悔はまったくない。

もちろん、ぼくの感じたそうした部分は、「この試合から」「ぼくが」感じたというだけで、実際はそうでないのかもしれない。また、もし仮にそうであったとしても、それを変えていくのは、これからの『藤枝』MYFCの仕事だ。


ただ、スタジアム入口に置かれた選手一覧表にシリアルナンバーを振っておいて、試合終了後に抽選でグッズをプレゼントというのは悪くないアイディアだとは思うけど、当選番号を貼り出したのは1階正面玄関に手書きでだし、せっかくの賞品グッズを渡す場所も用意せず、出場のなかった選手らしい兄ちゃんが「221番の方ー、221番の方はいませんかー」と、おおかたの観客の帰った後の2階ロビーで叫び続ける、というのは「上を目指す」クラブの運営としては、どうなんでしょう(苦笑)。まだまだ勉強しなきゃいけないところは多そうだね。


第2試合についても触れておく。矢崎バレンテ×マルヤス工業。矢崎は隣街・島田のチーム。====ThisIsTheErrorMessege====マルヤスは、雑誌で「JFLを目指します」と宣言====ThisIsTheErrorMessege====してノンリーグ・サッカーファンを驚かせた。

この試合、第1試合より13倍は面白かったと言い切ってしまいたい。どちらも、リスクを承知でゴールゲットという「リターン」を目指す。ちゃんと“闘い”になっていた。相変わらず矢崎はイグハギ頼みなのだけど、それでも東海1部ではイグハギは脅威になりえる。一方のマルヤスはCB山村泰弘が注目だけど、攻撃は右サイドの20番。後半なかばを過ぎてスペースが生じてくると、いきいきと右サイドを駆け上がってチャンスを量産。結局、この20番からの低いクロスからファーサイドでフリーのFWが蹴り込んで決勝点、マルヤスが勝利。このゴールが決まった直後、件のマルヤス20番はピッチにうずくまって拳を握り「やった!やったあ!」と喜びをかみしめていた。そこには、「勝つか/負けるか」の戦いの中で結果を出した、真の歓喜の表現があった。

そして、もう一つ。矢崎は10番を萩田がつけていた。ついに、ついに遠藤孝弘は引退したのだろうか。これもまた「『藤枝』の現在位置」のひとつの現れ、なのかな。

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