吉田鋳造総合研究所
鋳造所長雑文録
2008/04/19◆『股旅フットボール』、そして「16だから何かが起こる」
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地域リーグを観続けていた人間としては捨て置けないコンテンツである。著者:宇都宮徹壱氏の地域リーグへの視座については何度か批判的なことを雑文で書いたりしたけど、立ち位置が異なるとはいえ、下部リーグに関しては“同志”であり“戦友”でもある。

で、この本を読んでの感想なのだが、実はぼくは2つの理由で感想を著す立場にない。
一つは、“謀反の物語~あとがきにかえて”に書かれているように、帯のコピーを考えたのはぼくで、だからぼくは広義どころか狭義においても“発行側”の人間。ぼくが感想を書けば、それは感想文ではなく推薦文、宣伝文になる。
もう一つの理由は、この本が副題に“Jリーグ『百年構想』の光と影”とあるように、サッカーファンとしては『代表』や『J』に視座を置く読者に向けて書かれたもので、4部べったりな人間の感想はあまり意味を成さないと思うからだ。
でも、立場はどうあれ読んで思ったことはあるので、ここは一“読者”として、なるべくこれまでの視座で。


ぼくが一番興味を持って読んだのは、北海道リーグの2つのクラブを取り上げた節。著者は明確に地域リーグとか“地域決勝”を『J』の視座から見ている。他地域で取り上げたクラブはみな『J』志向を明確にしているところばかり。その中で、北海道では「おそらく『J』は視ていない」ノルブリッツと「遠い目線の先にうっすらと『J』があるから視ていると言ってしまっているだけで、実際は『視ている(watch)』ではなく『見えている(see)』に過ぎない」フェアスカイ。Jリーグ『百年構想』からもっとも遠い地域ではないか。フレンチのシェフが納豆を食材にどう料理するのか?みたいな好奇心で読んだ。
果たして、北海道リーグをオセアニア連盟に喩えたのは秀逸。そして、実は他地域に関する記述に比べて、一番“地域の事情”が中心になっていて、「『J』への焦燥感と、それをブーストする全社や地域決勝」というある意味ヒステリックな基本線から逸脱している。フレンチのシェフは納豆をアレンジすることをギブアップして、醤油と芥子と一緒に和えて客に出したというわけだ。逆に言えば現在の北海道リーグは一番地域リーグらしい地域リーグ、なのかもしれない。

「J+」連載時の著者の表現をぼくはすべて憶えているわけではないが、おそらく大幅な加筆修正がされているのだろうな、とは思う。著者が現在の「地域決勝」のレギュレーションに異議を唱え続けているのは知っている。これまで、雑誌メディアでの彼の表現には、その異議を直接「感情として現す」ように訴えていたのが、この本では起きている現象や現場の言葉を前面に出すことによって「感じてくれよ~…」という風な書き方がされているように思えた。
あと、やはりこの作品の“勝利点”は「ひとを中心にした」ことだろう。語れるひとに語らせることで、「4部の景色」や「地域の事情」が浮かび上がってくる。このあたりは、前著「ディナモ・フットボール」でもうまく生きていた部分。

ただ、副題に関しては“看板”に偽りあり。“Jリーグ『百年構想』の光と影”という視点では書けていない。J側が加盟の判断で重きを置く、クラブの「運営」と「経営」の実態にほとんど踏み込んでいないのだから。
だから、全社や地域決勝について書き下ろしているように、これも書き下ろしで「あとがき」の前あたりに「『J』はこの現状をどう見ているのか」の取材記があればより“副題に近い”になったかと。全社連の会長にも話を聞けたらベストだっただろう。地域リーグを制御しているのは『J』ではなく全社連なのだから。

最後に、些細なことだけど、「ディナモ・フットボール」を読んでいて気になった「己の天邪鬼な性格には、今さらながら溜息が出そうだ」というような表現が本書に見あたらなかったのはよかったと思う。自分のやっていることに自信と確信があるならこういう表現は出てこない。はずだ。


さて、本書で2年分の闘いが描かれている“地域決勝”。今年のレギュレーションはまだ発表になっていない。メディアで漏れてきたのは日刊スポーツ九州のこの記事====ThisIsTheErrorMessege====だけかも。
ポイントは「16チーム」と書かれていること。4チームで4リーグ。本書でびわこの戸塚監督が「不公平だよね」とグチっていた部分が修正されたことになる。でも、ぼくはこれはこれで波紋が起きる、と考えている。クッションがなくなってしまったことだ。

正式なレギュレーションが出ていない以上、あくまでも『もし』の話だ。これまでのところ、流通経済大が活用した「学連推薦」====ThisIsTheErrorMessege====や、ザスパが活用した「飛び級制度」====ThisIsTheErrorMessege====が廃止になったということは聞こえてこない。だから『もし』この制度が生きているなら、それは地域決勝の「地域リーグや全社の成績による」参加チーム数が可変になるということを意味する。
これまでは、「学連推薦」「飛び級」があれば、その分を「予選リーグの4チーム目」に入れて調整が出来た。それが出来なくなる。では、この両制度は廃止になるのか?となると、そうではないと思う。「学連推薦」は「学連」の事情で出来た制度だろうし、いま「飛び級」をやめたら「ザスパのための制度か!」となりかねない。

さて、どのような基準で選ばれるのか。さすがに、各地域の1位は出られるという部分に手をつけるとは考えにくいので「なら優勝すりゃいいじゃん☆」てことになるのだけど、北信越所属のクラブとかはそう落ち着いて様子見をするわけにもいかないだろう。「16だから何かが起きる。」====ThisIsTheErrorMessege====とは言うものの、どんなことが起きますやら。

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