吉田鋳造総合研究所
鋳造所長雑文録
2004/08/19◆プレイバックPART2
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神戸三宮の土曜の夜。“Charlie's Bar”でぼくらは軽く呑んでいた。彼女はカクテルを1杯、ぼくはカクテルは飲み干してしまい、もう1杯はスコッチのロック。店を出るとき、ヴィッセル神戸のユニ====ThisIsTheErrorMessege====を着ていたぼくはマスターのチャーリーさん====ThisIsTheErrorMessege====に呼び止められた。

「今日、どうだった?」

ちょっと待って。プレイバック!プレイバック!
いまの言葉、プレイバック!プレイバック。


「今日、どうだった?」

これは、いまから9年前の、帰宅途中のサラリーマンの科白。

ぼくが初めて駒場に行った時のことだ。相手はジュビロ磐田だった。まだジュビロが、相手サポが対戦前から「相手はジュビロかあ……」と軽くため息をついてしまうようになる、そうなる前のことだ。====ThisIsTheErrorMessege====レッズは1-0で勝利した。たしか清水から移籍してきたトニーニョのゴールだったと思う。
浦和駅前にある『リキ』に行ってみた。店の外にはテレビもあって、清水×V川崎を放送していた。たしか延長戦に入っていたと思う。この試合で清水が90分あるいは延長Vゴールで勝てば、レッズは首位に立つはずだった。『リキ』に集う全員が清水を応援していたはずだ。テレビを見ていたサポのひとりが「お前らを応援するなんて滅多にないんだから!」と叫んでいたが、結局、延長でも決着はつかなかった。====ThisIsTheErrorMessege====
『リキ』で軽く呑んだぼくはいい気分で浦和駅まで歩いていった。改札口で、仕事帰りの50歳代らしきサラリーマンが、赤いユニで身を固めたお姉さんに声をかけた。

「今日、どうだった?」
「勝ちましたよ、イチゼロ」と誇らしげにお姉さんが応える。

「そうか!」サラリーマン氏は満足した笑顔でバス乗り場に向かって歩いていった。いいモノを視たと思った。サラリーマン氏の笑顔じゃない。普通の、熱烈サッカーファンにはとても見えない紳士が、ユニで固めたサポに試合の結果を自然に尋ねる、その光景。


「今日、どうだった?」
「負け、2-3で」とぼく。
「0-2から追いついたんですけどね」とじゃからん嬢。
明らかに肩を落とすチャーリーさん。
「でも、明るい展望も開けましたよ。ホルバート====ThisIsTheErrorMessege====の加入はかなりいい効果を見せると思う」とぼくはフォローする。本心だ。あとは平瀬の使い方だな。2列目は彼の場所じゃないよ。あとコジコジの右サイドもどうかと。対アレックス戦は全敗だったと思うし。右にカンジョ君を入れてボランチに佐伯とコジコジ、ホルヴィは2列目、ってわけにはいかないのかな。


店を出たじゃからん嬢はだいぶ立ち直っていた。そうでもないのかもしれないけど、立ち直っていたように見えた。津軽からわざわざ神戸までコジコジを観にやって来たのに、彼の主な仕事は右サイドからのスローインだけだったなんて。レッズが3点目を取ったときは黙っちゃったし、会場を出てから地下鉄に乗って三宮に着くまで彼女はずーっとへこんでいた。
でも、ぼくには彼女が羨まかった。富山でYKKサポ氏に会った時にも感じたことだ。ぼくには観戦の『軸』がない。勝ったときは喜びを爆発させ、負けたときは翌日の仕事が疎かになるほどへこむ。そういった、喜怒哀楽を預けられるようなクラブというのが、ぼくにはない。“なくなった”というべきなのだろうか。“あった”としたなら、西濃運輸だ。全額ではないけれど、かなりの額を預けていた。もし、いまもあのクラブがJFLでぜえぜえひいひい言いながらサッカーを続けていたら、ぼくはいまでも喜怒哀楽を預けていただろうか。わからない。もう7年も前なのだ。

プレイバック!プレイバック!
あの時の昂りを、プレイバック!プレイバック。

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