吉田鋳造総合研究所
鋳造所長雑文録
2002/12/30◆Saturday in the Park.
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数年前。近鉄難波駅入口の地下道で、トイレに行っている知人を待っている間に、何気なく近鉄百貨店の広告を見ていて「あっ。」と気づいたことがある。


JFL入替戦を観るべく、東に向かう電車の中で読んでいたのは、東本貢司・著『フットボールと英語のはなし ~サタデー・イン・ダ・パーク~』。スカパーでプレミアリーグの解説もこなしている翻訳家・東本氏の「より英語に近づくための本」。ということになっている。

はっきり言って『英国かぶれ』いやいやこう書いたら著者に怒られる『イングランドかぶれ』の著者による文句垂れまくりの本、と括ってしまうことも可能。現地の人はTheは『ザ』とは発音しない『ダ』に近いだから『サタデー・イン・ザ・パーク』ではなく『サタデー・イン・ダ・パーク』にしたと力説しているが、発音されているのが『ザ』でも『ダ』でも正しくないのなら、この言説に意味はない。だって、カタカナでその音を表現出来ないのだから。厳密に発音を文字表現したいのなら、発音記号を駆使して説明するべきなのだ。
イギリスではなくイングランド。レンタルではなくローン。トレードではなくトランスファー。ま、確かにそうだけどね。プレミアに「付加価値」という意味はない。====ThisIsTheErrorMessege====ごもっとも。ぼくだってP屋で「スロットルかかりました!」====ThisIsTheErrorMessege====と叫ぶ店員の襟首を掴みたくなるのは何も自分がコテンパンに負けているからではない。と、思う。センタリングではなくクロス。これは日本ではほぼ定着している。韓国のサッカー中継を観ていると、現地のアナウンサー氏は「センタリン!」と叫んでいる。これをどう思う?「あーあ、まだセンタリングなんて言葉を使っているよ」と嘲り気味に感じるのなら、この本を読む価値があるかもしれない。ぼくらの使っているサッカー用語だって実は似たり寄ったりだ。

でも、著者の鬱屈もわからないではない。ぼくだって「それは違うだろ?」と思うことがある。最近の例では『ホームページ』という表現。

最近、どうもこの単語が気になってしょうがない。Welcome to my HomePageなんて書いてあったりもするんだけど、用法としても文法としても間違ってはいないけど意味合いとしては間違っている。HomePageとは、index.htmlなどの、「構成されたウェブページの集合体=ウェブサイト=の最初に開かれるページ」の事を指す。ところが日本では、ウェブサイト全体の事をホームページと呼称することが多い。というか、ほとんど。気になりだしてから、ぼくはホームページあるいはHPという表記は意識して使わないようにしている。もちろん「ぼくが使わない」という以上の拘束力は持たないけどね。
言葉なんて消費財なんだから変わっていくのは当然だし、用語の意味が本来のものから離れていくことだって当然。本来、リストラには「首切り」の意味なんてない====ThisIsTheErrorMessege====し、お隣の国ではIMFにバーゲンの意味====ThisIsTheErrorMessege====を持たせていた。「2ちゃんねる」なんか読んでいると、厨房がハケーンしたりがんがったりしたりするわけで、固有語ですら破壊されていくのだから外来語が破壊されていくのは当然とは言わないまでも止められないんだろうなあ。
だから、「~は間違いで~が正しい」ではなく「~は以前は~と言われていた」「~は本当は~という意味なんだけど」という風に一歩退いて考えるべきなのかもしれない。

『フットボールと英語のはなし ~サタデー・イン・ダ・パーク~』を読んでいる時はもっといろいろな事を考えたし雑文に載せてやろうと思っていたのだけど、2晩に及ぶアルコールの海に溶け出してしまい忘れてしまった。まあいいや、思い出したら書くけどアテにしないでね。アイディアは出たときが旬だと言ったのは松任谷由美だったっけ。


近鉄百貨店の広告を見ていて「あっ。」と気づいたこと。「これこれはなになにが正しい」という風な表現が並んでいて、「正しいライフスタイルは近鉄百貨店で導入しよう」みたいな感じだったのだけど、その中に

「お礼の言葉は、『すみません』ではなくて『ありがとう』が正しい」

と書いてあって、ぼくは「あっ。」と思ったのだ。以後、基本的にお礼を言う際には「ありがとう」と言うようにしている。最近ではほとんどのひとが軽いお礼では「すみません」と言うので、「ありがとう」という言葉には、決して目立たないのにその場の雰囲気をほんの少しだけ和らげる効果がある、ような気がする。ちょっとお勧め。


今年の雑文はこれでおしまい。今晩は当直で明日朝には帰省しちゃうからね。とりあえず1年間続けることが出来まして、始めてからはアクセス数が倍になったりで、読者の皆様には深く感謝です。来年もそこそこの頻度で更新できればと思ってますので、どうぞよろしく。というわけで、最後はネタを提供してくれた東本氏の愛するプレミアリーグのハイライト番組に倣って

『では、また来年。』

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