吉田鋳造総合研究所
鋳造所長雑文録
2002/09/15◆岐阜におけるクラシコ。
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かつて、西濃運輸という破格に強いチームがあった。

………もしもし?

いやいや、西濃運輸サッカー部は破格の強さだったのだ。岐阜県内においては。


西濃運輸が解散廃部になってから、天皇杯の代表は4年連続で高校生が務め上げている。笠松の岐阜工業高校か、各務原高校。そのどちらか。岐阜にはVAMOSやJUVENTUGEといったしっかりしたジュニアユースのクラブ組織があり、その卒業生が進路に選ぶ両校は戦術理解度も高く、ちょっとやそっとの世代交代ではビクともしない強さを誇っている。残念ながら、社会人が歯の立つ相手ではない。
現在、1種チームの最高カテゴリーが都道府県リーグだというところは、岐阜と滋賀と和歌山だけ。川崎重工岐阜と岐阜教員が東海リーグから降格し、岐阜県社会人は実質的な鎖国体制に入った。以来、岐阜県の最強チーム決定戦は、すべてのカテゴリーを含めて岐阜工業vs各務原。まさに岐阜におけるクラシコと呼べるカードである。

こんなにも強い高校のチームが2つもあるのに、社会人に彼らを受け入れる体制がないために、有力選手が県外に逃げていく現状。国体成年の部にも県代表を送り込めない。その閉鎖的状況を打開すべく、協会主導で「FC岐阜」というクラブチームが創設された。Jは目指さない。JFLもとりあえずは目指さない。目標は東海リーグ1部とは、なんと慎ましいのでしょう。監督は、かつて西濃運輸を率いた熱血漢・勝野正之氏。創設1年目は県リーグ2位。東海社会人トーナメントで話題の静岡FCと互角に渡り合った末に惜敗。そして2年目、社会人のトップチームとして天皇杯予選に出てきたFC岐阜は準決勝で岐阜工業高校と戦う。天皇杯代表に社会人を送り込めるかもしれない。久しぶりに楽しみな県予選がやって来た。

試合開始前に登録メンバーをみせてもらうと、元山形の森下と元PJMの小原がFC川崎====ThisIsTheErrorMessege====から移籍してきていた。元仙台の松村はパンフレットには名前があるがスタメンにいない。しかし、なんと言っても注目は栗田義之だ。背番号19。結婚して苗字が変わった。旧姓・石崎。かつて西濃運輸の右サイドバックとして爆裂スピードの突破を見せ、その攻撃的スタイルから一部で「石崎、持ち場に戻れ!の会」なるものも結成された。第3回JFL公式プログラムに「趣味:ガンダム」と載ったために一部サッカーファンからは「ガンダム石崎」と呼ばれているが、現場でのあだ名は「ダック」。====ThisIsTheErrorMessege====

試合が始まって腰を抜かした。栗田がストッパーをやっているではないか!これではあの爆裂スピードが発揮できない。しかしさすがに全国2部を経験し、アマラオらとわたりあったベテラン、相手の動きをキッチリ読んで仕事をさせない。そして前半のなかば、相手左サイドにスペースが出来たかと思うと血が騒いだのか持ち場を離れて一気に加速する。そこにボールが出て決定的チャンスになりかかるが相手DFがなんとかクリアーしてコーナーへ。ぼくの近くでそのシーンを見ていた地元サッカー選手のような若い衆が話をしている。

「彼が国見のひと」
「速いな」
「今年30だって」
「………マジ?」

しかしこの会話を聞いたぼくは寂しさを感じた。彼は既に「元西濃のひと」とは呼ばれなくなっているのだ。西濃運輸がなくなって6年になる。若いひとだと存在すら知らないのかもしれない。
この栗田の突破から得たコーナーキックのチャンスを生かして、なんとなんとFC岐阜が先制。これで試合は面白くなった。しかし、次第に岐阜工に中盤を支配されていく。DFがなんとかがんばってクリアーするものの、トップの森下がぶつけられたボールをキープ出来ないのでそこから再びの攻撃、その繰り返し。最後はFC岐阜の脚が止まってしまい3失点。それでも、西濃以降に見た岐阜県の社会人クラブで一番「展望」のみえた試合だった。CBを補強して栗田が右サイドを駆け上がれるようになったら、もう少し拮抗した試合になったかも知れない。それにしても松村祐吏はどうしたのだろう。
そして、とにかく勝野さんが元気だったのが嬉しかった。ピッチの誰よりも大きな声で指示を出す姿を見て「このひとは本当に現場のヒトなんだなあ」と思った。この試合の第4審判は村上さん====ThisIsTheErrorMessege====で、ギリギリまでピッチに近づいてどなる勝野さんに「下がって下がって」とたしなめる姿は、血気盛んな親父をなだめる息子のようで微笑ましかった。

第2試合のハーフタイムに、岐阜工の監督が選手に話しているのを聞いた。それによると、いまの岐阜工はどん底とも言える状態の悪さで、今日の勝利は久しぶりだったのだそうだ。社会人が少しは強くなったのかと思っていたが、そうではないのかもしれない。


翌週の決勝。現時点でのチームのポテンシャルでは各務原の優勢は明らか。順当に各務原がゲームを支配するものの、そこはやはりライバルの意地だ。試合終了間際は岐阜工がガンガン攻めて各務原がベッタベタに守るという展開になった。いくら彼ら高校生にとって本当の目標は高校選手権だとしても、やはり負けるのは悔しいのだ。岐阜におけるクラシコは、しばらくはこのカードだろう。ガンダム栗田が本来の持ち場から持ち場を離れられるようなったら多少は変わるのかもしれないけれど。

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