cyic.co.uk 吉田鋳造総合研究所
鋳造所長雑文録
2002/01/29◆一番印象に残った試合。
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「人生で最も大切なことは目的をはっきりさせることです。例えば私がテストで70点を取ったとしましょう。ライバルが95点取ったら私の負けですか?違います。テストの目的は合格することです。合格点が70点なら70点取ればいいのです。仕事にしてもそう。食べることが目的なら食べられるだけ働けばいい。しかしサッカーは違う。サッカーの目的は勝つことなのです」(Number南米サッカー特集に掲載された、あるメキシコ人のインタビューより。記憶により再構成)


今年も東海社会人トーナメントの季節がやって来た。

毎年1月に行われる全国地域リーグ決勝大会。この大会の後あたりに、東海4県の県リーグそれぞれ上位2チームから東海リーグへの昇格2チームを決める大会、それが東海社会人トーナメントだ。代表戦やJ1の磐田戦・鹿島戦を観慣れたサッカーファンが観たらおそらくしょぼいという感想しか出てこないような大会。でも、これまで300試合以上を生観戦して「一番印象に残った試合は?」と尋ねられたら、ぼくは岐阜は長良川メドウで行われた5年前のこの大会の「岐阜教員vs静岡スバル」を挙げる。ちょっと思い出してみよう。


ぼくが到着した時は、昇格の1チーム目を決める試合の後半途中だった。開始時間を間違えていたのだ。静岡県代表のACMブルックス====ThisIsTheErrorMessege====が古河電工三重を圧倒的にリードしていて、もはや試合の行方は決まっていた。試合が終わり、大挙して押し寄せた藤枝サポは喜び勇んで引き上げていき、第2試合の岐阜教員vs静岡スバルの試合を観るために残っていたのは、まさに両チームの関係者だけといった感じだった。
試合は終始静岡スバルがゲームを支配。でもゴールを割ることが出来ない。ラストの詰めが雑過ぎるのだ。最初から数で守ってカウンター狙いの岐阜教員のペースと言えないこともない。やがて、そのカウンターから岐阜教員が先制。喜ぶスタンドの観客。おそらく選手の奥様達だ。「ほら、パパが点取ったよー」なんてこどもに教えているお母さん。なんとも、のどかなものだ。
しかし、そんなアットホームな雰囲気が後半途中から変化する。同点を狙って攻め上がる静岡スバルの裏をついて、これまた見事なカウンターで岐阜教員が2−0とリードしたのだ。それと前後して、観客席の様子がおかしくなった。「どうしよう、勝っちゃうよ、どうしよう」奥様達が予想しない事態にうろたえ始めたのだ。
2点差を追いつこうとさらに攻撃戦力を増やして攻め立てる静岡スバル。しかし反撃も1点までで、2−1で岐阜教員の勝ち。東海リーグに昇格だ。しかし、選手達にはガッツポーズも勝利の雄たけびもない。箒の柄で花瓶を落として割ってしまった掃除担当のような表情を浮かべている。スタンドから選手の奥様の一人が声をかけた。

「ねえ、どうするのー?ねえ、どうするのー?」

それはそうだ。いままでは岐阜県内を移動していればよかった。県1部を構成するチームは主に岐阜・西濃地区。飛騨まで行く事だってなかったはずだ。しかし、これからは東海地区を股にかけて勝負しなければならない。考えられる最東端は沼津か御殿場?家族や家計への負担は想像以上だろう。もちろん、岐阜教員の選手達もわかっていたはずだ。でも彼らは勝ちたかったのだ。なぜなら、サッカーの目的は勝つことだからだ。

1年後、岐阜教員は東海リーグを戦い終えて下位2チームに入り、岐阜県リーグに戻っていった。教員である彼らはサッカー部の監督を兼務していることが多い。生徒の大会があればそちらに行かなければならない。選手を揃えるのに苦労したそうだ。シーズンが終わって、選手のひとりは協会関係者に言った。「落ちてよかった」と。確かに、そうかもしれない。


でも、5年前に観た「岐阜教員vs静岡スバル」は、「サッカーの目的は勝つことだ」ということをぼくに一番明確な形で示してくれた。ぼくがこの試合を「一番印象に残った試合」に挙げる理由は、そこにある。

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