吉田鋳造総合研究所
鋳造所長雑文録
2002/01/09◆哀愁のLoftusRoad (鋳造の通販生活3)
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何事においても「初体験」というものには、ほろ苦い思い出が付随するものである。すべての事柄が思い描いていた通りに進むはずがない。ああ、もう少しうまくコトを進めたはずなのに。そうして人間は成長していくのだろう。「初体験」というものには、ほろ苦い思い出が付随するものである。そう、何事においても。


1月7日夜、バスを降りたぼくを小雨が迎えてくれた。修理に出していたバイクを引き取りに来たのだ。グローブは自宅に忘れていた。冬の雨は冷たい。それでも今日引き取りに来なければならない理由があった。自宅に備蓄の灯油はほぼ枯渇状態だった。ファンヒーターのタンクに半分入っている灯油が燃え尽きるという事態は想像したくないものだった。だから、クルマを保有していないぼくはどうしても雨の中バイクを引き取りに行く必要があったわけだ。

バイクで走っている最中、雨は強くなっていった。自宅に戻り、空のポリタンクを積んでガソリンスタンドまで再び走るのはつらい行程だった。でも、ぼくの心境はバイクを引き取って自宅に戻る前と後ではまったく違って、前向きになっていた。それは「この仕事が終われば・・・」というものではない。自宅では別のものがぼくを待っていたからだ。

灯油を自宅に運び入れると、ポストを開けて「それ」を取り出した。ビニールの袋にはLOFTUSと書かれていた。初めてネットのファンショップで買ったもの。QPR====ThisIsTheErrorMessege====から「もの」が来たのだ。QPRからのメールには「2ヶ月待て」と書いてあったはずだが、約1ヶ月で商品が届いたのだ。たしかスカーフを頼んだはずだ。うきうきわくわく。しかし、袋を開ける段になって急激にもの凄い不安が襲ってきた。袋が小さいのだ。軽いのだ。びくびくしながら袋を開けたその瞬間、ぼくは松田優作になった。世代間格差でこの表現が通じないひとは読み飛ばしてくれて構わない。ぼくは松田優作になったのだ。


「なんじゃあこりゃあああっ!」


袋から出てきたものは、スカーフのミニチュアだった。横幅は30cmくらいだろうか。吸盤が2つついている。まさか、まさか。ぼくは慌ててQPRからのメールを一言一句飛ばすまいと慎重に読み進めようとした。しかしその必要はなかった。原因はすぐにわかった。ぼくが頼んだのは「スカーフ」ではなく「カー・スカーフ」だったのだ。アクセサリーとしてクルマのリア・グラスなどに吸盤を使って貼りつける、ミニチュアのマフラーだったのだ。

なぜ、ぼくは注文の際に4ポンドというあまりに安い値段に何の疑問も挟まなかったのだろう。なぜ「CAR」の文字を見過ごしたのだろう。考えつく理由は一つだけだった。「恋は盲目」。この古くからの言葉がぼくから離れなかった。初めて、ネットを利用してファンサイトでグッズを買った。ぼくの好きなQPR。他の男は見向きもしないかもしれないけど、それでも構わない。ぼくの好きなQPR。ぼくは盲目だった。片想いのぼくにも何も見えていなかった。そして、ぼくの好きなQPR「あなたが欲しいのはこれよね?」と言って、クルマを持っていないぼくにカー・スカーフを送ってくれたわけだ。


カー・スカーフはぼくの部屋のインテリアの一つになった。ぼくは、おとなになった。だから読者の皆さん、今回のぼくの文章が少しばかり「かねこたつー」のに似ていたとしても、許してやってほしい。彼がNumberで書いたテヘランの絶望====ThisIsTheErrorMessege====の数%ぐらいはぼくも体験できたような気がするのだ。この原稿を打ち終えたぼくは、これからわずかな肴をアテに酒を呑むだろう。少し深く、呑むだろう。どうしようもない話だぞこのヤロ。

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