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オートバイ遍路:day.11
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結願を終えた遍路に残された最後の仕事、それは高野山奥の院で瞑想に耽っていると言われる弘法大師に報告をすることだ。

前夜の天気予報では雨だということだったが、6時に起きると鳥の囀りも聞こえる。早朝に散歩をする市民の声も聞こえる。6時20分過ぎにホテルを出た。こんな時間からうまいうどんを喰わせてくれる店が高松にはある。長距離トラック運転士御用達と言われる中西。中讃S級指定の店には及ばないが、この時間にこれが喰えれば何の文句もない。国道ではなく県道10号を大内まで走った方が早いとヨコクラうどんのおじいちゃんも言っていたので、そのルートで東へ。引田から板野までの県境越えは開通したばかりの高速道を使う。これが一番早くてラク。

そして到着したのが第1番・霊山寺。どうせ徳島から和歌山までフェリーで渡って高野山に行くのだから、遍路はじめの寺でも報告をしていこう。到着したのが8時過ぎ。1番さんなのでここから遍路を始める向きが多いが、遍路は早起ちだから8時過ぎだとおおかたの遍路はスタートした後で、寺は思っていたよりは静かで団体さんが1組いるくらいだった。本堂と大師堂でお参りして報告を終える。境内を清掃している尼僧さんがいたので、今回の遍路でとずっと疑問に思っていたことを尋ねてみた。遍路ガイドを読むともらい火はいけないことと書いてあるのもあるけど、まわってみると団体さんとかみんなもらい火していた。実際はどうなの?
「構いませんよ」と尼僧さんはケロッとしたもの。怨念が移るとか言うひともいますが全然構わないです。結局はそのひとがどう思うかですよ。「なるほど、すべてはひとの心の中にあるということね」とぼくが言うと、尼僧さんはちょっとびっくりしたように動きが止まった。「悟っていらっしゃいますね」微笑んで彼女は言った。88ヶ所巡り終えて、ぼくの中でも何かが変化したのだろうか。

和歌山まで戻る。もうあのこってり和歌山ラーメンは厳しいので、インターネットでタンメンがうまいと書かれたハーバァへ。地図がなければ見逃すような小さな店。出てきたタンメンはさっぱりしていて、野菜の風味がにじみ出たいい味だった。午後1時を過ぎて、あまりのんびりしてはいられない。バイパスを一気に東へ走り、かつらぎ町から高野山へ。雲が重くたれ込めていて、とにかく寒い。麓とは明らかに違う。途中の厳しい上り坂を走りきると、そこには住居や寺院や商店。約1200年前に計画された山の上の宗教都市。

奥の院の駐車場まで行き、いよいよ中へ。いろんな会社が供養塔を建てている。しろあり研究所のものもあった。殺生で食べている会社だからね。杉林の中をさらに奥へ。休憩所の前で、遍路の際にずっと身につけていた白衣を着る。そして御廟橋。====ThisIsTheErrorMessege====神聖に汚れなくいきたかったのだが、もうすごいの。何がって、花粉が。そりゃあ周囲すべて杉の木だもん。天気が悪いので鼻炎薬を飲まなかったのだけど大失敗だ。でも、お堂の掃除をしていたお坊さんも花粉症マスクをしていたのでなんか安心してしまった。お堂の正面でお参りし、時計回りに裏に回って、弘法大師が入定している御廟でお参り、さらにお堂の地下に降りると大師と同じ高さになる。ここで最後のお参り。いつもよりゆっくり読経。聖域を離れ、納経所で記帳してもらって、これで遍路はすべて終了。でも88番大窪寺で味わったような感動は沸き上がっては来なかった。

あまり時間に余裕はないが、高野山に来ることはあまりないので有鉄バス====ThisIsTheErrorMessege====の到着を待ったり南海電車の高野山駅====ThisIsTheErrorMessege====に寄ったりした。そして橋本まで坂を下る。途中でこれまで四国遍路で一緒だった屋島観光のバスとかとすれ違う。やはりみんな最後はここを目指すのだ。しかし、もう延々とワインディングロード。右に左にバイクを傾け続けるのでいい加減疲れてしまい、高野下の駅前を通り過ぎる頃にはもうへろへろ。ずっと一緒に遍路をまわった仲だからバイクも一緒に高野山へと思ったのだが、橋本駅にバイクを止めて電車などを乗り継いだ方が絶対にラクだった。
とにかく今日中に帰っておきたい。もうホテルはいい。橿原のあたりでちょっと道に迷ったけど午後7時頃には天理に着いた。牛丼で簡単に空腹を満たし、往きとは逆に名阪国道を東へ。風も強くなって来たがとにかく早く帰り着きたいので亀山から先も高速道路を選択したのだがこれが大誤算。御在所岳を吹き下ろすものすごい横風に吹っ飛ばされかけ、ハザードランプを出しながら60km/hでチンタラ走ることになる。息も絶え絶えになりながらなんとか桑名東までたどり着いた。いつもはここから長良川沿いに北上するのが信号も少なくてベストルートなのだが、桑名まで来ても養老颪の横風が強い。ダメもとで堤防まで行ってみたが、ぼくの体重を持ってしてもバイクが反対車線まで飛ばされてしまう強風。100mも走らずに退散。この中を1時間もかけて走る勇気はぼくにはない。桑名から大垣まで国道を北上した。こちらでも何度か飛ばされかけて、いやあ参りました。11日間に渡る四国ツーリングで一番キツかったのが最終日の桑名から自宅までだったとは、とほほ。自宅に着いたのは夜10時。出発から2,515km走ったことになる。

ぼくがこの11日間でやって来たことは明確に宗教行為だった。よくあのサッカークラブのサポは宗教だ====ThisIsTheErrorMessege====とか言うけれど、では宗教だとはどういうことなのか、実際に体験せずに使っているところがあった。今回、宗教の時空間に身を置いてみて感じたのは、宗教だというのは本来は悪い意味で使われる表現ではないということ。普段生活する分には意識することもないし正直言って誰かが死ぬまで縁がないとも思っていた仏教というものが、古典文化ではなくちゃんと現代に生きているものだということ。納経帳に記帳してくれたひとの中には、白のパーカーを着た茶髪のお姉さんもいた。別に真言宗にずぶずぶになるつもりも予定もないけれど、宗教というものに対する根拠のない距離感はだいぶなくなったように思う。そして、自分の中にとにかく何かをなし得たという手応えが残っている。今後の人生に対してそれは明らかに何らかの財産になるはずだ。現時点ではぼくはそう思っている。

この日に訪ねた寺院一覧はこちら。

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