cyic.co.uk 吉田鋳造総合研究所
特別企画『ぼくの闘病生活』
第8回 「ぼくが浄土寺を訪れる理由」
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復職して健康な生活が続き、ぼくの忍耐も限界に近づいていた。
「ねえ先生、まだお酒呑んじゃ、だめ?」
彼は露骨にしょうがねえなあという感じでぼくにこう言った。「ビールをコップ1杯ちびちびなら、いいでしょう」

早速、例の「先に死んだら許さないからね」と言ってくれた彼女にアポを取った。旦那に「嫁さん借りるぞ」と許可を得て、いままで行ったなかで一番オシャレなバーに行った。しかし、名古屋の医師が「ビールをコップ1杯ちびちびから」と言った理由をそこで思い知ることになる。ぼくの肝細胞は半年に及ぶ禁酒の結果、アルコールを知らない状態になってしまっていて、見事にビール1杯でへろへろに酔っ払ってしまった。こんなにもウブな肝臓になっていたとは。もちろん、それから一月経って「こんなにも簡単に元に戻るのか」と感心しながらカンカン呑める人間になってしまうのだが。

体調も戻って普通通りの社会生活が出来るようになったので、リベンジマッチに出掛けた。長期闘病生活を予言した尾道の「浄土寺」へ。再び籤を引いてみると、病気の欄には「長引くが、全快するでしょう」と書いてあった。嘘だと思う方も多いだろうが本当の話だ。ぼくは敬謙な仏教徒ではないが、これ以来、尾道を訪れる時は必ず浄土寺を参拝することにしている。



ま、とにかくそんなわけで実は吉田鋳造はガンを克服して復帰した人間だったんですね。だからなんだろうけど、「ガンだ」というだけでヘコんでいるひとを見ると無性に腹が立つのだ。

以前勤めていた会社の課長さんが膀胱ガンで入院したという話を聞いて、どうせ抗ガン剤でげえげえやっているんだろうとバナナ====ThisIsTheErrorMessege====を持っていった。

ベッドに横たわった彼の姿は、かつての彼がひからびたようにしか見えなかった。ヘコみは誰が見ても明らか。でもやっぱりぼくは腹が立ってきた。彼に自分も経験者だということを話すと、心底驚いていた。ぼくは彼に話した。すべてのガンが克服できるとは限らないが、まったく克服できない病気ではないこと。克服できるんだ、克服するんだという意思を持たないと克服できるものも出来ないこと。

それから何ヶ月かして、彼が退院復職したという話を聞いた。さすがに入院前のように営業畑最前線というわけにはいかずに事務系の職場に異動になったようだけど、それでも元気に仕事に就いているというのは嬉しい限りだ。


Jが開幕してからの年数は、すなわちぼくがガンを克服してからの年数になる。いい経験をしたとは決して言わないけど、貴重な経験だったとは思う。でも、生命保険の掛け替えがものすごく困難になったのも事実だ。SさんにもMさんにも断られた。

いろいろなひとに迷惑をかけた。いろいろなひとに励まされた。迷惑をかけた方にはお詫びの気持ちを、励ましてくれた方には感謝の気持ちを伝えたい。

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